生成AIを仕事に使っていても、毎回同じ資料を渡し、作業の手順を説明し、出てきた回答をExcelへ転記していると、担当者の手間が残ります。担当者が変わったときに、同じやり方を引き継げるかも気になるところです。
こうした課題を考えるときに役立つのが、AIエージェントの「ハーネス」という考え方です。AIが参照する情報、使う道具、処理を進める仕組み、結果を確かめる方法を整え、仕事の流れにつなぎます。
この記事では、同じ注文書処理を例に、通常のチャットでAIを使う場合と、業務に合わせたハーネスを使う場合を比較します。仕事のつなぎ方と人が確認する範囲を理解し、自社で最初に試す仕事を決めるための入門記事です。
通常のAI利用とハーネス活用の違い

ここで「通常のAI利用」として比べるのは、担当者がチャットへ資料を渡し、回答を次の作業へ受け渡す使い方です。同じ注文書PDFから確認用一覧を作る仕事で比べます。
チャットで都度依頼する場合は、資料を追加したり、次の作業を指示したり、回答を一覧へ転記したりと、担当者が工程をつなぎます。業務に合わせたハーネスでは、資料の参照先・使う道具・確認条件をあらかじめ組み込み、読取りから照合、確認用一覧の出力までをつなぎます。
比較の焦点は、仕事の受け渡しを毎回人が行うか、業務に合わせて仕組みにするかです。ハーネス側もすべてがAIではありません。AIモデルは内容の読取りや次の作業の判断を担い、プログラムは道具の呼出しや実行、結果の受渡しを担います。
ハーネスがつなぐもの
AIエージェントのハーネスとは、AIモデルの周囲で動き、道具の利用や情報の受け渡し、処理の継続、実行範囲の制御を支えるソフトウェアの仕組みです。
たとえば、AIが「このファイルを読む」と判断したら、実際にファイルを読む道具を動かし、その結果をAIへ渡します。AIは結果を受けて、次に何をするかを判断します。このやり取りを繰り返して、完了や停止につなげます。
Anthropicの解説でも、ハーネスはモデルの周囲にある実行ループ、道具、文脈の管理、制御の仕組みとして説明されています。出典:Agent Harness Design
業務に当てはめると、設計する内容は次のようになります。
| 整えるもの | 注文書処理なら |
|---|---|
| 参照する情報 | 注文書、商品マスタ、取引先ごとの品名対応表 |
| 利用する道具 | ファイル読取り、表データの検索、確認用一覧の作成 |
| 処理の継続と記録 | 処理済み・未処理・担当者の確認待ちなどの状態、途中結果の保存 |
| 確認と権限 | 数量や品番の検査、人の承認、書込み先の制限 |
社内の手順書やチェックシートは、ここで使う判断基準を整理する材料です。実際に資料を読み、道具を動かし、結果を次の処理へ渡す部分と組み合わせて、業務で使う仕組みにします。
プロンプト、業務フロー、ハーネスはどう関係するか

プロンプトは、AIに目的や判断基準を伝える指示です。「注文書から品名と数量を取り出し、不明な箇所は推測しない」といった内容が当たります。
業務フローは、受取り、読取り、確認、登録など、仕事の順番と担当を表します。ハーネスを設計するときは、この流れのうち、AIがどの情報や道具を使い、結果に応じてどこまで進めるかを具体化します。
この3つは、どれか一つを選ぶものではなく、組み合わせて使います。プロンプトで依頼と判断基準を伝え、業務フローで担当と順番を整理し、ハーネスでAIと道具の実行をつなぎます。
処理順が決まっている仕事なら、既存システムやスクリプトで順番を固定し、必要な箇所だけAIを使う構成が考えられます。資料の内容に応じて調べ方を変える仕事では、AIが道具や次の作業を選ぶ構成も候補になります。
Anthropicは、あらかじめ決めた経路で進むワークフローと、モデルが処理や道具の使い方を動的に選ぶエージェントを区別し、必要に応じて複雑さを増やす考え方を示しています。出典:Building effective agents
自社では、まず「どの判断にAIが必要か」を確認すると、導入する仕組みの範囲を決めやすくなります。
注文書処理で見る、AIとハーネスのやり取り

たとえば、メールで届いた注文書を見て、事務担当者が品名と数量を読み取り、商品マスタから品番を探し、登録用の表へ入力しているとします。
この構成例では、AIモデルが注文書の内容を読み取り、次に必要な検索や出力を判断します。ハーネスは、その依頼に応じて道具を動かし、結果をAIへ返します。AIモデルと、実際にファイルやマスタを扱うプログラムを分けて考えます。
プログラム側では、使える道具と出力先、形式の検査、処理状況の記録、停止条件を管理します。AIが道具の結果を受けて次の処理を選ぶ往復をつなぐことで、確認用一覧の作成まで進められます。
この例では、出力した一覧を担当者が元の注文書と照らして確認し、販売管理ソフトへの登録と取引先への送信を行います。判断が必要な明細を担当者へ戻す条件は、以下で整理します。
参照する資料と出力形式を決める
対象の注文書、照合に使う商品マスタ、出力先の列をそろえます。最初の出力は、元の注文書と見比べられる確認用一覧にすると、担当者が修正箇所を見つけやすくなります。
確認用一覧には、元ファイル名、注文番号、取引先の品名、数量・単位、自社品番の候補、担当者の判断が必要な理由を持たせます。品番は先頭の0が消えないよう文字列として扱うなど、出力形式の条件も決めます。
読み取り・照合・確認の役割を分ける
AIは注文書から明細を取り出し、表の形に整理します。品番の候補を探す際は、登録済みの対応表や商品マスタを使います。数量の必須入力、列の並び、重複など、条件が明確な検査はプログラム側へ持たせる設計が考えられます。
品番の候補が複数ある、数量が読めない、数量の単位が一致しない明細は、該当する明細の自動処理を止め、担当者の判断を待ちます。止めた理由と元の注文書を確認用一覧から追えるようにし、処理状況を「担当者の確認待ち」として記録します。担当者は元の注文書と照らして修正し、確認を終えた内容を出力します。
この構成なら、どの段階で誤りが起きたかを、読取り、照合、確認、出力に分けて調べられます。
中断・再実行でも処理状況が分かるようにする
途中で処理が止まったときは、どの注文書まで終わったか、どの明細が確認待ちかを記録から再開できるようにします。同じ注文書を取り込み直したときに、二重に出力しないための識別方法も決めます。
長く続く処理では、会話履歴だけに進捗を任せず、途中結果や状態を保存する設計が役立ちます。Anthropicの長期処理の事例でも、作業の記録を残すことや、完了の判断に検証を組み込むことが扱われています。出典:Effective harnesses for long-running agents
AIへの指示に加えて、道具の権限と停止条件を整える
業務へ組み込む際は、「登録しないで」「不明なら止めて」とAIに伝える内容を、実行する道具やプログラムの条件にも反映します。
たとえば、試行中に使うアカウントは参照専用にし、出力先を確認用フォルダへ限定します。登録用の道具を設ける段階では、人の承認状態をプログラム側で確認してから動かすようにします。Anthropicのハーネス設計解説でも、操作ごとの道具に確認や記録の仕組みを組み込む考え方が示されています。
注文書に書かれた備考は、読み取る業務データとして扱います。そこにAIの動作を変えようとする文章が含まれていても、社内ルールや実行権限を変更する根拠にしない設計が必要です。参照資料と動作の指示を区別し、権限側でも実行範囲を限定します。
停止条件には、必要な列がない、参照先に接続できない、候補が決まらないといった業務上の例外に加え、再試行の上限も設けます。エラーが続いたときに何度も同じ処理を動かさず、理由を記録して担当者へ返せるようにします。
最初は一つの仕事を、下書き出力まで試す
最初の対象には、繰り返し発生し、正解を担当者が確認できる仕事を選びます。注文書からの明細整理、問い合わせの分類案、議事録からのタスク案の作成などが候補です。
試す前に、次の項目を一枚に整理してみてください。
| 決める項目 | 注文書処理の記入例 |
|---|---|
| 入力 | 指定フォルダの注文書PDF |
| 参照資料 | 商品マスタと取引先別の品名対応表 |
| 出力 | 元ファイル名付きの確認用一覧 |
| AIへ任せる範囲 | 明細の抽出と品番候補の整理 |
| 人が確認すること | 候補が複数の品番、数量・単位、判読できない箇所 |
| 完了の条件 | 必要な列がそろい、元の注文書と照合できる |
| 止める条件 | ファイル不備、照合不能、再試行の上限到達 |
まずは過去の処理済み資料を使い、手入力の結果と比べます。読取りや生成にかかった時間だけでなく、資料の準備、確認、修正、出力までを計測します。訂正や重複、不鮮明な資料も試すと、通常の流れから外れたときの扱いを確認できます。
その結果を見て、指示文、参照資料、検査条件のどこを直すかを決めます。既存ツールで対応できる範囲と追加開発が必要な範囲を確認し、役に立った工程から運用へ移していきます。
自社の仕事に合わせて、任せる範囲を整理する
自社で始めるなら、「毎回同じ説明をしている仕事」を一つ選び、その仕事の入力と出力を書き出すところから取り組めます。担当者の確認が多い場合は、何を見て判断しているのかも一緒に整理すると、AIに渡す資料や検査条件が見えてきます。
オプティードのAI活用支援では、業務の課題に合わせたAIの導入、業務での活用、自動化や定着を支援しています。どの工程から試すか迷う場合は、現在の作業、使っている資料、出力先を分かる範囲でお知らせください。




