生成AIの活用を会社の成果につなげたいと思っても、何を目指し、どの仕事や役割を変えればよいのか迷うことがあります。文書作成や要約は便利になったものの、部署ごとの使い方が増え、会社としての方向を決めにくくなっている方もいるのではないでしょうか。
AX戦略を考える際は、顧客や事業にどんな変化を生み出したいかを出発点にします。そのうえで、変える業務や役割、社内で共通に整える条件、最初に試す取り組みをつなげます。
この記事では、製品に関する問い合わせがベテランへ集中する会社を例に、経営課題からAX戦略とAI活用方針を考える流れを説明します。最後に、自社の方針を一枚に整理する際の記入例も紹介します。
1.経営課題から、顧客や事業に生み出したい価値を決める

AX(AIトランスフォーメーション)は、AIを活用して業務や組織のあり方を継続的に変えていく取り組みです。AX戦略では、その変化によって誰にどんな価値を届け、会社をどのような状態にしたいかを考えます。基本的な意味やDXとの関係は、AXとは?DXとの違いと中小企業の進め方で紹介しています。
たとえば、顧客から製品の仕様や使い方について質問が届くたびに、担当者が資料を探し、ベテランへ確認している会社を考えます。ベテランが不在だと回答が止まり、顧客も製品の選定や発注の判断を待つことになります。
この会社が目指す価値は、顧客が必要な情報を早く得て、次の判断へ進めることです。回答内容のばらつきを抑え、担当者が変わっても対応を続けられることも、事業を支える成果になります。
製品の選び方や使い方を案内できることが自社の強みなら、その知識を必要なときに顧客へ届けられることは、事業として力を入れる理由になります。経営者は、こうした自社の強みと顧客の課題を照らし、重点を置く領域と、当面は取り組まない領域を決めます。
課題が複数ある場合は、顧客・事業への影響、活かせる強み、必要な人や費用、ほかの取り組みとの関係を比べます。手順の変更や資料の整備で改善する部分も確かめ、AIを活用する価値があるところへ人や予算を配分します。
そのために、確認済みの製品情報を担当者が使えるようにし、通常の問い合わせへの回答と専門的な判断を分担する、といった変革を考えます。AIによる資料検索や回答案の作成は、この方向を実現する手段として位置づけます。
AX戦略・AI活用方針・個別計画をつなげる
考える内容を次のように分けると、経営の目的と現場の取り組みを結びつけやすくなります。
| 考える範囲 | 決めること |
|---|---|
| AX戦略 | 顧客や事業に届ける価値、変える業務・組織、重点を置く領域と実現の方向 |
| AI活用方針 | 活用する情報、推進体制、人とAIの役割、社内共通のルールや投資の考え方 |
| 個別のAI活用計画 | 今回試す業務、担当者、実施方法、期間、成果の確認方法と継続・変更の条件 |
中小企業では、取り組みの規模に合わせて一枚の方針や計画にまとめ、実践しながら内容を更新できます。
最初に「どのツールを何人で使うか」まで決め切る必要はありません。顧客や現場が困っていることと、良くしたい状態を経営者と現場で共有するところから始めます。
2.自社の現在地と、実現に必要な条件を確かめる

目指す方向が見えたら、自社の強みと、いま足りない条件を確かめます。AIを使った経験に加え、業務を理解する人、参照できる情報、運用を続ける体制を見ます。
人・情報・実践経験を、仕事に即して確認する
問い合わせ対応の例なら、次の点を確認します。
- 人と業務知識:よくある質問に答えられる人、専門的な判断をする人、回答内容を確認する人は誰か。
- 情報と既存のIT:最新の仕様書や回答履歴はどこにあり、誰が更新しているか。担当者が必要な情報を見られるか。
- AIの利用経験と学び:どの仕事で使い、何がうまくいったか。誤った回答や、使わない方がよかった条件も共有できているか。
たとえば、製品情報が個人のメールや古い資料に分散しているなら、正しい資料を決め、更新する担当を置くことが先の課題になります。ベテランしか判断できない条件は、過去の回答を整理し、例外や確認先も含めて共有する必要があります。
ここで見えてくる業務知識や顧客理解は、自社の強みです。AIで利用する情報へ整えることと、その知識を確認・引き継げる人を育てることを、一緒に考えます。
必要な支援と、最初に試せる範囲を決める
AIを試した経験だけでなく、結果を確認し、業務や情報を改善し続けられるかを確かめます。自社で担えることと不足していることを整理し、必要な準備や外部支援を判断します。
たとえば、現場担当者が資料と回答の正しさを確認できても、情報へのアクセス権や既存システムとの接続を判断しにくい場合は、その部分を専門家と確認します。最初は一つの製品群など、情報と確認者をそろえられる範囲から試せます。
業務ごとに条件は異なります。部署による経験の違いも踏まえ、試す範囲、必要な教育、外部に支援を求める内容を具体化します。
必要な人材や情報がすぐにはそろわない場合は、最初の対象や期待する成果も調整します。実現条件を確かめながら、戦略と方針の整合を取っていきます。
3.変える業務・役割と、AIの活用方法を考える

実現したい価値と自社の条件を踏まえ、仕事の進め方を組み直します。問い合わせ対応なら、資料を探す作業、通常の回答、専門的な判断、情報の更新を分けて考えます。
探す手間と確認の集中を、どう減らすか
問い合わせ内容に応じてAIが確認済みの資料を探し、参照元と回答案を担当者へ提示する形が考えられます。担当者は元の資料と照合して回答を整え、顧客へ送ります。資料にない条件や、専門的な判断が必要な問い合わせは、ベテランや製品の責任者へ回します。
これにより、担当者が毎回資料を探し直し、通常の質問までベテランへ聞く負担を減らすことを目指します。ベテランは、例外への対応や製品知識の更新に時間を使えるようにします。
新しい回答を共有する際は、製品の責任者が内容を確認し、正式なFAQや製品資料へ反映します。次の担当者も同じ情報を使えるようにすることで、個人の経験を会社の対応力へつなげます。
会社として目指すのは、回答案が早くできることに加え、顧客の待ち時間が減り、誰が担当しても必要な回答へたどり着ける状態です。資料の整備や役割の変更も、AIの活用と一体で進めます。
既製ツール・内製・システム連携を、条件に合わせて選ぶ
実現方法には、既製のAIツールを業務手順に取り入れる、自社の情報や手順に合わせて設定・内製する、既存システムと連携して構築する、といった選択肢があります。
問い合わせの例でも、まず担当者が承認済みの資料を参照しながら回答案を作る方法を試し、効果と課題を確認できます。資料を探す操作や履歴の記録までまとめたい場合には、社内向けの仕組みを作る方法が候補になります。顧客情報や案件管理との連携が必要なら、既存システムを含めた設計を検討します。
実現方法は、必要な機能、扱う情報、利用人数、運用する人、費用から選びます。同じ会社でも業務ごとに使い分けられます。内製で仕組みを作る具体的な進め方は、生成AIによる業務の仕組みづくりで紹介しています。
4.全社で必要な体制・情報・ルール・投資方針を整える

個別の取り組みを支えるために、会社として共通に決めることを整理します。現場が使ってよい情報や判断できる範囲が分かると、日々の改善を進めやすくなります。
経営者・推進担当・現場の役割を明確にする
経営者は、目指す価値と重点領域、人や予算の配分、継続や拡大の判断を担います。推進担当者は、経営者と現場をつなぎ、準備、相談、結果の確認をまとめます。現場は業務の条件を伝え、試して、運用中の困りごとを共有します。
小さな会社では、これらを兼務することもできます。その場合も、情報を更新する人、日々の相談を受ける人、取り組みの範囲を変える判断をする人を確認しておきます。
問い合わせ対応なら、製品情報の正本と更新責任者を決め、回答する担当者へ確認手順を共有します。利用者や参照資料を増やすときに誰へ相談するかも決めます。
現場で進める範囲と、会社へ相談する条件を共有する
たとえば「AIは社内の回答作成を支援し、顧客への送信は人が確認する」「正式な製品情報を参照し、製品の責任者が更新する」という内容は、共通の方針になります。
その範囲で、現場は質問の伝え方や確認手順を改善できます。一方、顧客へ自動送信する、別部門の情報へアクセスさせるなど、情報の扱いや責任が変わる場合は、推進担当者や経営者へ相談する条件として整理します。
投資は、実践と運用を続けるための費用まで考える
予算にはAIの利用料や構築費のほか、資料の整理、現場の参加時間、教育、確認、運用後の修正も含めます。問い合わせ対応なら、製品情報を更新し、回答内容を確認し続ける時間も必要です。
試行に使う範囲と費用、試行後に何を見て継続や拡大を決めるかを先に共有します。複数部門で同じ資料や仕組みを使える場合は、共通化の効果と管理に必要な負担を合わせて判断します。
5.個別の実践から得た成果と学びで、戦略を見直す

戦略と方針を具体化するために、最初の取り組みを計画します。問い合わせ対応なら、一つの製品群を対象にし、担当者と確認者、使う資料、試す期間を決めます。顧客へ回答する前に、過去の問い合わせで回答案と参照元を確かめる段階を設ける方法もあります。
AIの利用、仕事の変化、顧客への価値を分けて確かめる
評価では、次のように見る対象を分けます。
- AIが役立っているか:必要な資料を見つけられたか。回答案の誤りや、確認・修正の量はどの程度か。
- 仕事が変わったか:資料を探す時間やベテランへの問い合わせは減ったか。確認や資料更新の負担は続けられる範囲か。
- 顧客や事業に価値が届いたか:顧客が回答を得るまでの時間は変わったか。回答の不足や再問い合わせが減り、次の判断へ進めるようになったか。
同じ製品群や問い合わせの種類を対象に、試す前後の記録を比較します。回答案を作る時間に加え、確認、専門担当への相談、送信までを含めて確かめます。利用回数だけで成果を判断せず、顧客の反応や現場の負担も確認します。
学びを、個別計画・共通方針・戦略へ戻す
たとえば、回答案は早くできても、確認できる人が一人しかおらず顧客の待ち時間が変わらないなら、確認手順や役割分担の見直しが必要です。複数部門で資料の更新が止まっているなら、共通の情報管理と更新体制を見直します。
さらに、問い合わせ対応を通じて「顧客が製品の比較や使い方でつまずく」という課題が見えてきたら、製品の選定支援や案内方法へ取り組みを広げるか、経営として検討できます。こうした発見を、次に届ける価値や重点領域の判断へつなげます。
効果がある条件、うまくいかなかった理由、確認に手間がかかった点を残します。結果に応じて継続、変更、拡大、縮小、停止を判断し、次の計画や共通の方針へ反映します。
自社の戦略と方針を、一枚に整理する
経営者と現場が話し合う際は、次のようにまとめると、目指す価値から最初の実践までを確認できます。
| 整理する項目 | 製品問い合わせを改善する場合の記入例 |
|---|---|
| 届けたい価値 | 顧客が必要な情報を早く得て、製品の選定や発注の判断へ進める |
| 変える仕事・役割 | 通常の回答を担当者が進め、ベテランは専門判断と知識の更新を担う |
| 共通に整える条件 | 確認済みの製品情報、更新責任者、人による回答確認、相談窓口 |
| 最初の取り組み | 一つの製品群で、参照元付き回答案を担当者が確認して使う方法を試す |
| 投資・参加体制 | 利用料に加え、資料整理・試用・確認・教育に必要な時間を確保する |
| 確かめる成果と見直し | 顧客の待ち時間、回答品質、担当者とベテランの負担を確認し、継続・変更・拡大を判断する |
まずは、いま顧客や現場に起きている問題、良くしたい状態、自社で使える知識や情報を書き出します。そのうえで、経営者と現場が最初の範囲と確認方法を決めると、戦略を実践へつなげられます。
オプティードと、経営課題からAI活用の進め方を考える
オプティードでは、経営や業務の課題を整理し、AIをどこで活用するか、現場の仕事をどう変えるかを一緒に考えます。必要に応じて、社内の情報整理、仕組みづくり、研修や運用への定着まで支援します。
専門家と現場が一緒に取り組むことで、経営者が期待する成果と、実際の業務条件を照らし合わせられます。自社で担うことと支援を使うことを整理し、担当者が運用・改善を続けられる状態を目指します。
相談の際は、会社として良くしたいこと、現場で困っている仕事、現在のAIの使い方を、分かる範囲でお聞かせください。具体的なツールや詳しい仕様が決まっていない段階からご相談いただけます。




